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クルミの場合 [ミニ小説]

昔、アルトに聞いたことがある。
「アルトはいつから詩人になったの?」

それは…

アルトの話し声は、心地よい音楽のようだ。

「それは、ショクギョウとしての詩人のことを聞いている?」
「うん」
違うような気もしたが、思わずそう答えてしまった。
「難しい質問だね。いつから詩を書き始めたのかというほうが答えやすいな」
「じゃあ、それ!アルトはいつから詩を書いているの?」

アルトの笑顔は、今日、庭に咲き始めた花に似ている。

「クルミの頃には書いていたよ。そうだな、その頃賞をとった。最初の質問の答えはそれかもしれない。」
「すごいなぁ」
どちらかというと、私と同じ年頃で詩を書いていたことに感嘆したのだ。
「クルミは、作文を書くときどういう気持ちで書く?」
「どういう気持ち?」
「書くまでに時間がかかる?」
「うん。すごーく悩む。」
「気持ちをそのまま書くと、詩になる。うれしいことや楽しいことはもちろん、怒りも悲しみも。」
自分の目がぱちくりするのがわかる。
「そのまま書けばいいところを、たいていの人はいろいろ考えて、書くんだ。たとえば人に見せたり、見られたりしたときのことを考えて。そのほうが、難しくてすごいと思うんだ。」

その頃の私はあまり理解できなくて、ただいつものようにアルトの心地よい声に酔っていただけだったと思う。

アルトとの思い出はたくさんある。
「さようなら、なんて言葉いらないと思うの」
大好きな友達が転校してしまったときも、真っ先にアルトのところに行ったのだ。

「明日のためのさようならもある」
てっきりアルトが詩を読み上げているのかと勘違いした。
「誰かのためのさようならも、ある」
アルトはまっすぐ私を見ていた。
「自分のための、さようならも、ある」
私は最後をちょっと尻上がりにして、アルトを見た。

アルトは時の流れに逆らうかのように、ゆっくり頷いた。

私がアルトと話したのは、それが最後だった。
次の日、アルトは自ら自分の命を絶った。

それから私は涙が出なくなった。

今日、私はその時のアルトと同じ年になって、アルトのことを思い出していた。

思わず言葉を綴っていた。思いを綴っていた。

私は世間では詩人、という人になっていた。

いつのまにか、涙が出ていた。

さようなら
さようなら

さようなら。

明日のための、誰かのための、

自分のための。

3つのさようならで手を止めても涙はしばらく止まらなかった。

そして、それは「初恋」という名の詩になった。

さようなら、おにいちゃん。

昔、新しいお父さんと一緒に新しい家族になった
その人は「歩く人」と書いて、「アルト」と言った。
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